
2026-08-12
「今日は何を着てきてくれるんだろう」——そんな小さな期待から始まる一冊。『デコ×デコ』は、後輩の頼みごとに振り回されながらも少しずつ距離を縮めていく先輩・九重さんを中心に、衣装というモチーフを軸にした短編を集めた作品集です。WEB広告をきっかけに知った読者も多く、短編集ながら発売直後から話題になりました。
表題作は、後輩から「これを着てください」と頼まれた九重先輩が、渋々といった様子を見せながらも結局は付き合ってしまう、というやり取りの繰り返しから始まります。最初のうちは「後輩に頼まれたから仕方なく」という体裁を保っていた九重先輩ですが、話数を重ねるごとに、その関係にまんざらでもない空気が滲み出てくるのが読んでいて楽しいポイントです。
先輩後輩という上下関係がありながらも、実際に主導権を握っているのは頼み事をする後輩の方、という力関係の逆転がこのエピソードの面白さを生んでいます。命令されているようで、実はいちばん心を許しているのは先輩の方——という読み味は、短編ながらも読後に温かい余韻を残してくれます。
本作にはバニーガールやメイドなど、異なる衣装をテーマにした短編が複数収録されています。同じ「衣装を着る」という導入でも、キャラクターの関係性や性格によって物語の温度感がまったく違って見えるのが短編集としての面白さです。1本ごとに主人公とヒロインの組み合わせが変わるため、読み終えるたびに違う関係性の余韻を味わえます。
短編は独立した話として完結しているので、途中から読んでも置いてけぼりになりません。通勤・通学の合間や寝る前のちょっとした時間でも、1話単位で気軽に読み進められる構成になっている点も、短編集ならではの利点と言えるでしょう。
単発の読み切りではなく252ページというまとまったボリュームがあるため、1冊を通して読んでも満足感のある分量になっています。WEB広告で話題になったエピソードを起点に興味を持った方でも、そこから他の収録作にも自然に手が伸びる構成です。
先輩後輩というなじみ深い関係性を主軸にしながら、衣装というわかりやすいモチーフで各話に変化をつけている点が、短編集全体としてのまとまりの良さにつながっています。
GOT COMICSは、日常の延長線上にあるような等身大の関係性を描く作品が多いレーベルという印象がありますが、『デコ×デコ』はその中でも「衣装」という視覚的にわかりやすいフックを持っている点が特徴的です。同レーベルの他作品を読んだことがある読者であれば、作風の親しみやすさに違和感なく入っていけるはずです。
逆に、このレーベルを初めて手に取るという読者にとっても、短編集という形式と王道の先輩後輩設定は、変化球の少ない入り口として選びやすい一冊になっています。「まず1冊、GOT COMICSを読んでみたい」という人にも勧めやすい作品と言えるでしょう。
当サイト編集部による主観的な感想です。公式のレビュー・評価スコアとは異なります。
『デコ×デコ』は、先輩後輩の距離感の変化と衣装というモチーフを掛け合わせた、短編集ならではの読み口の軽さと満足度を両立させた一冊です。表題作から気になる話を選んで読んでみるのもよし、頭から通して読んでキャラクターごとの違いを味わうのもよし。読み方を選べる懐の広さも、この作品の魅力のひとつです。← コラム一覧へ戻る